【特集】誰もが大切。みんなでおしゃべり。

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NPO四日市Dサポート メモリーカフェ‘日永’

ある木曜日の朝。休診日のクリニックに人が集まってきました。

なごやかな雰囲気の中、今日カフェに参加される方の情報共有が始まります。
その方がどんな仕事をしてきて、どんな性格で、何が好きで、今の状態はこうで…

家族と共に参加者が続々とやってきました。この日は9組。
最初は、家族と一緒に。そのあと、【回想法】と【家族のお茶会】の時間を過ごします。
それぞれ小さなグループに分かれて、話しやすい雰囲気がつくられます。
最近はZOOMを活用してお互いの様子をスクリーンで見守ることもしています。

席についてすぐ、たくさんお話する方や、ぴりっと固い表情の方、落ち着かない様子の方。
ちょっぴり緊張感に包まれつつ、自己紹介が始まりました。
「昭和〇〇年生まれで…」0.1秒で「私より〇〇才若い!」おお~、とどよめき。
スピード計算のやりとりを12人分くり返し、いよいよトーク開始です。

グループトークにはお題があります。
『懐かしの食べ物といえば?』 スクリーンにはアイスキャンデーや紙芝居、水あめの画像が。
色とりどりのアイスキャンデーをみて、「こんなに色、多くなかった。」
「ピンクと白しかなかった気がする。」「自分はピンク選んでたんちゃうかな~。」
と幼少期の思い出を語ります。

最初は表情が硬かったけれど、徐々にぽつぽつと話し始める方、
みんなの話を聞いてうんうんと頷く方、たくさんお話する方などいろんな方が
参加されていました。この日は県外からの参加者も。

家族のみなさんは、日々の暮らしぶりを
笑いあり、グチあり、時に涙あり、でおしゃべりしています。
「うちのお父さんたら、こんなこと言うんよ」「うちはね、こんな感じ」」
「どうなるかね」「どうなるかな」「元気でいよっ!」そんな会話が飛び交います。
みなさん、それぞれ思いや本音を打ちあけ、それぞれの方の話を自分事のようにじっくり聴きます。

「ここがとっても楽しいよ」「ここにくるのがホント!楽しみ」
「ずっと話していたいわ」「お菓子もでるしな(笑)」。
“大変さ”を抱えたみなさんが、“ふっ“と休まり、心がやわらかくなる大切な空間です。

ここは四日市にある認知症の方とその家族が語らう場、メモリーカフェ‘日永’。

2016年から始まり、コロナ禍ではZOOM等を活用してカフェをオープンし続けました。
メモリーカフェ‘日永’にとって『回想法』(昔のことを思い出すきっかけづくり)は名物。
なごやかなグループトークの背景には細やかな仕掛けがたくさん。
各グループにはそれぞれリーダー(進行役/ファシリテーター)とコ・リーダー(橋渡し役)
がいて、参加者の表情、しぐさ、熱量を五感で感じ取って進行します。
みんなで体操する、など同調感をもたらすようなことはしません。

メモリーカフェ‘日永’を運営されている、
三原クリニック院長・NPO四日市Dサポート代表の三原さんにお話を伺いました。

立ち上げのきっかけ

クリニックには認知症治療の設備が揃っています。当初から患者さんの支援をしたい という思いがありました。
認知症は患者自身が受け入れることが難しい病気で、診断をうけてから支援につながるまでの空白期が平均1年半
あります。認知症の方で施設入所されている方は少数で、ほとんどの方が自宅・地域で生活しています。
ただ診断して終わりではなく、地域でどのように共生していくかの支援が重要です。

以前支援の一つとして、本人と家族を対象に「ものわすれ大学」を実施していました。2時間みっちり認知症に関する知識を伝えましたが、反応はいまいち。医者として伝えたい事と、家族が求めている事が違っているようで、やる度に落ち込みました。(笑)ある日、ものわすれ大学にて家族同士が「お風呂に入ってくれない」「うちは、こう伝えたら入ってくれたよ」といったやりとりが始まったんです。次の回で、「その伝え方でお風呂入ってくれました」
「よかったですね」と喜びを分かち合うご家族の姿がありました。私の講義よりずっと盛り上がりました。やり方が根本的に違っていたことに気づきました。その後、滋賀で『ものわすれカフェ』を実践されているクリニックを参考にして、 すぐ四日市でも始めたいと思いスタートしました。

大切にしていること

いろんな人と、地域に開かれた場所で開催することを大切にしています。日永地区支援センター職員、行政職員、
地域ボランティア、作業療法士、薬剤師、子ども、学生、精神保健福祉士、高齢者サロン運営者、包括支援センター
職員、当事者の家族など…。いろんな人が関わる事で波及効果を大切にしています。なかなか自分事として認知症を
捉えにくいかもしれません。しかし、今後自分自身や家族、友人、同僚、多くの人が認知症に関わっていく事は避けられません。地域・市町の枠を超えて広域で取り組む必要があると感じています。ぜひ一度、体験(見学ではなく、参加が大事です!)に来てください。

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