【取材】こどもたちのかかわりの中で社会をみつめる こどもたちの声を聴くSDGs 福本 由紀氏(一般社団法人ウネシャル 代表理事) 

目次

こどもたちのかかわりの中で社会をみつめる
こどもたちの声を聴くSDGs
福本 由紀氏(一般社団法人ウネシャル 代表理事) 

「出口」をつくる…。

代表理事 福本由紀さん

「生きる力 育てる明日」。一般社団法人ウネシャルのキャッチコピーです。代表理事の福本さんは、子ども食堂の運営に関わっていましたが、子どもたちや保護者の方の状況を見続けるなかで「あること」に気づきました。
「子ども食堂は『入口』、でも『出口』はどこにあるのだろう」。
子ども食堂には課題を抱えた家庭や子どもたちが訪れます。食事をとったり、居場所を持ったりすることは、大切なことです。でも、「子どもたちや家庭が抱える課題や困難な状況はどう改善され、どう解決されていくのだろう。出口はどこにあるのだろう。出口をつくりたい。」
その思いを行動に移そうと、任意団体を立ち上げ、その後、2023年6月に一般社団法人化し本格的に事業をすすめています。

子どもたちの価値観

「どんな出口が必要なんだろう。課題を抱える子どもや家庭の出口って…。」と福本さんは考えました。
「子ども食堂に訪れる人たちとたくさん話をする中で気づいたことは、親も子もいろいろな人に出会い、さまざまな価値観に触れることが大切なのではないか、その体験が人生の選択肢を増やすのではないか、ということです。」
家庭と学校以外の社会との接点が作りづらい中で、どのようにそういった機会を作っていけばいいかを考えました。そこで、ウネシャルでは、子どもたちの体験を作り、ロールモデルに出会えるような「職業体験・ワークショップ」を企画しました。
高校生が飲食店に行き、シェフから調理方法や接客方法を教えてもらい、ウェイターになってお客さんに料理を運ぶ。そんな体験型ワークショップの開催後には、参加した高校生がその飲食店でアルバイトをするようになりました。総合型スポーツクラブヴィアティン三重とコラボしたワークショップも開きました。スポーツに関わる仕事と言うと「選手」を連想しがちですが、このワークショップでは、運営をする、言わば裏方のスタッフが「スポーツ業界にはどんな仕事があるか」「キャリアについて」の話をしました。選手でなくても、スポーツに関わる仕事がたくさんあることを、実際に働いている方から学び、体験することができる機会を提供しました。参加者は、普段会うことができない人に会い、その人がなぜその仕事についたのか、いろいろな仕事があること、知らない世界があることを知ることができました。

高校生の可能性…。

「高校生が学校や家庭以外で大人に接する機会がほとんどないことがとても気になっています。進学や就職を決める大切な時期であり、様々な出会いや体験が少ないと選択の幅や可能性が狭くなってしまいます。高校生の多くは、実質アルバイトが禁止されており、社会経験の機会格差を感じます。」と福本さんは話します。
 ウネシャルでは、2024年度に四日市市の委託事業で、高校生の就労実態調査をしました。その中で、高校生のインターンシップの実施について調べてみたところ、生徒のモチベーションの創出、受け入れ企業の企画設計に、もっと改善できることがあるのではないかと気づきます。学校のスケジュール上、やむを得ず、インターンシップの期間が3日間程度と短くなってしまい、生徒、企業の双方にとって、メリットが生み出せていないとも感じたそうです。福本さんは「受け入れ企業、生徒ともに、『やってよかった』と思えるような企画を考えたい」と話します。

「暮らし」をつくるための学習

福本さんは、今も子ども食堂のお手伝いをしています。その子ども食堂には、児童養護施設の子どもたちが毎月入れ替わりで訪れます。子どもたちとおしゃべりをしながら、「児童養護施設で暮らしている子どもたちは、特に、社会との接点が少ないのではないか」ということに福本さんは気づきます。児童養護施設での生活の特性上、なかなか気軽に職員以外の大人と関わることができない。施設の子どもたちも多様な価値観を持つ大人との交流が必要なのではないかと考えました。
施設を退所する子どもたちにどんなサポートができるか、ウネシャルのメンバーで話し合いました。
まず初めに、施設の中高生を対象とした「キャリアインタビュー」という企画を実施。なりたい職業や、興味のある分野をヒアリングし、実際にその分野で働く大人に繋いで、1対1でインタビューをするという内容です。この企画には、5人の子どもたちが参加しました。保育士になりたい男子生徒と男性保育士、声を使った仕事をしたい女子生徒とラジオのパーソナリティ。それぞれ関心のある職業についている人を招き、直接話を聞き、具体的に考えることのできる「接点」をつくりました。

今年度は新しいプロジェクト「IPPO(いっぽ)」を立ち上げました。施設を退所する前の子どもたちの不安や課題の軽減を目的としたプロジェクトで、多様なジャンルのプロを講師として招き、さまざまな知識や情報の共有、またはワークショップを開催しています。
初回には、調理師を講師として招き、簡単にできる一人暮らし向きの料理を一緒に作りました。野菜の保存方法や、キッチンばさみの便利な使い方、栄養についてなどを、楽しく学ぶ場としました。5月には、社会保険労務士を講師に招き、社会保険のこと、給与明細の見方などを話してもらいました。
今後は、アパートの借り方や内見のポイントなどを不動産業に従事する方に教えてもらったり、健康について薬剤師と一緒に考えたりする予定です。三重県立の夜間中学「みえ四葉ヶ咲中学校」とのつながりもできつつあります。夜間中学も、学びたい人、学びが必要な人に、学習機会を提供する「入口」の取り組みだと、福本さんは捉えています。「夜間中学を卒業した人が、学んだことをどのように社会で活かしていくのか、そこに注目していますし、私たちにできることは何か、考えながら関わらせていただいています。」

学びと仕事が両立する場づくり

 「社会との接点を持ち、多様な価値観に触れ、様々な体験をする。 高校生のインターンシップや、児童養護施設の子どもたち、夜間中学に通う方々、いろんな世代 と関わる中で、どの世代においても大切なことは変わらないと感じています。 キャリアというのは、仕事のことだけではありません。 ですが、自立した生活をしていく上で働くことはとても重要なことです。 人生の大切な時間を費やす仕事を、いろんな選択肢の中から自分で選んだ、という体験が人生の 満足度につながると実感しています。」福本さんは、 子どもたちにより良い選択をしてもらえるよう、いろんな立場の方との繋がりを作りながら、ウネシャルにできることは何かを日々考えて活動しています。
今後、取り組んでみたい活動について伺うと、「バイターン」という答えが返ってきました。「あまり聞き慣れないかもしれませんが、『バイト』と『インターン』を合わせた造語です。 教育的要素を取り入れながら、実際に働く。 そう簡単に導入できると思いませんが、受け入れ企業、子どもたちにとって、両方のメリットを 明確にし、課題や不安をサポートできるコーディネーターになりたいと思っています。 」

子どもたちに「楽しい」大人の姿を見せたい

身近にいる子どもたちに、何かできることはないかなと、思いながら活動している福本さん。
「『 〇〇くん、あの仕事に興味あるって言ってたから、今度△△さんに会わせたいな』というように、自分たちのつながりや知識、経験を子どもたちに共有したい。 それが正解かどうかはわからないですし、正解は子どもたちが決めること。 ですが、環境によって選択が狭められているなら、他の大人がその環境を少しでも変えられるような機会を作れば良いと思います。そしてもう一つ大切なことは、私たち自身が、『楽しい』と思える企画をすること。 そんな姿を見ていただき、参加したい、関わりたい、と思える若い世代が増えてくれることを願っています。」

目次