趣意書

 それは自己尊重トレーニングをしているときのことでした。日本中から集まってきた50人ほどの青
少年たちは「自分のいいところを3ヶ所以上書いてみましょう」と渡されたペーパーを手に、ひらたす
ら唸り続けていました。
 逆に自分の駄目なところは、即座に、いくつも書き連ねることができるのです。
 学校の勉強(成績)を筆頭に、自分の価値が「できる」「できない」という基準で計られ、常に比較
に晒され続けている子どもたちは、自己の否定面しか育んでいないのだという現実を、その場
面に見る思いでした。
 日本の社会はいつからこれほどまでに多様な主体を否定して、一つの価値観で人間のすべて
が、人格すらも決定されてしまうようになったのでしょう。
 子どもたちが息苦しさに押しつぶされていても、何の不思議もないことです。
 鬱積されたモヤモヤは、思春期には性にかかわる問題と重なって電話線を通して伝えられてきま
すし、全ての事例ではありませんが一側面として見たとき、虐待というかたちになって、親世代の
問題としても浮き彫りにされています。
「どうすればいいと思いますか?」と答えを受け手にゆだねる子どもたちも数多くいます。自分で考
える手間を省いて、結果を早急に求める風潮があることも否定しませんが、それよりもむしろ強く感じ
たのは、親が敷いたレールの上を、ひたすら走り続けている子どもたちの姿です。
自己決定をし、その結果がどうであろうと自己責任を負う、そんな経験の積み重ねを全くというほど
持ち合わせていないのです。常に受身の指示待ち症候群で生きてきた彼らに、自尊の感情、
つまりエゴではなく本当の意味で自分を大事に思う気持ち、自分への愛、自己の尊厳につながる人
間として一番大切な感情の育ちは叶わないのかと胸が痛みます。
 子どもの世界のありようは、大人の世界の写し絵である以上、私たちは大人は何をしなければなら
ないのか問われます。子ども自身が起こす事件も、子どもが被害者になる事件も根っこのところは同
質です。
 親にも教師にも見せない様々な顔を覗かせる電話でのつながりは、子どもたちにとって大事な斜め
の人間関係になるのかもしれません。そして、覆面であるがゆえにより子どもたちの心を解放し、居
場所づくりになるのだと確信しています。

チャイルドライン24実施組織 代表理事 田部眞樹子
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