はじめに

 

  

   ● 直談判するのが一番!

   竹内係長はその場で、文化財課と環境保全課に電話。

   原さんの提案について、かいつまんで説明した。

   しかし、どちらの返事も色よいものではなかった。

  環境保全課が

  「歴史関係のイベントでしょう?だったら、うちよりも文化財課じゃないですか?」と言えば、

  文化財課は

  「ゴミ拾いと水を綺麗にする活動は、うちじゃないでしょう。環境保全課に振ってくださいよ」と

  取り付く島もない。

   横目で、原さんの表情が曇っていくのがわかった。

   「チッ!! 仕事が増えるのを嫌がって他部署に振ることしか考えていない。まったく情けない限りだよ。」

   竹内係長は心の中で舌打ちしながら電話を切ると、立ち上がった。

   そして、「原さん、恐れ入りますが、ちょっとついてきていただいてもよろしいですか?

  こういう時は、直談判するのが一番なんです」と微笑みかけると、文化財課に向かった。

   そして、電話をした職員を呼び出すと、その上の階の環境保全課に向かった。

   そこでも、電話に出た相手を呼び出した。

   原さんを前にして、さすがに両課職員は少しきまり悪そうな表情になった。

   竹内係長は、すかさず、

  「さっきの電話の件なんだけど、とりあえず、原さんの話を聞いてもらえないだろうか?」と切り出した。

 

  

   ● 気持が徐々に動き出す

   4人でテーブルにつくと、

  原さんは「お忙しいところ、申し訳ございません」と静かに語り始めた。

 

  原さん

  「私は、この町で生まれて、今まで暮らしてきました。

  子どもの頃は、運河にたくさんの船が行き交い、町は活気にあふれていました。

  運河のそばでよく遊んだものです。

  ところが、今では、町は人が少なくなり、運河もすっかりどぶ川のようになってしまいました。

  その姿を見ると胸が痛んで…。

  それで、少しずつでも運河を綺麗にしようと、10年前から友だちと一緒に細々と清掃活動をやってきたんです」

  竹内係長

  「最近では、少しずつ賛同者も増えて、清掃活動に参加する市民の輪が広がり始めている。

  これこそ、まちづくりの原点だと思うんだ。

  こんな時に、行政とNPOが協働したら、より一層効果が上がるように思うんだけど」

   
   このような調子で、原さんが運河にかける思いや、将来的なビジョンを語り、

  合いの手を入れるように、竹内係長がフォローしていった。

   最初は「しょうがないな」という感じで聞いていた2人だが、だんだんと気持が入ってきたようだ。


  環境保全課

  「原さんのお気持はよくわかりました。われわれとしても、運河の浄化は課題だと捉えているんです。

  ただ、今は財政が厳しいので、大規模な浚渫工事は市長もなかなかウンとはいえない。

  市民活動が盛り上がって、世論が動けば可能性が出てくるかもしれません」

  文化財課

  「たしかに、運河がわが市を形づくってきたといっても過言ではないんです。

  本当は子どもたちに運河沿いの遺物に触れてもらえれば、良い教育ができるんですが…」

 

  といった発言が出るようになってきた。

   こうなると、「しめたもの」と竹内係長は心の中でニンマリ。

   「今回のエコイベントは、たくさんの市民の関心を運河に向けさせる絶好の機会だよ。

  なんとか成功させようじゃないか」と畳み掛けた。  

 

 

  

   ● 役所のイメージが変わる

   すると、二人とも「そうだな…」と本気モードに。


  文化財課

  「ところで原さん、運河の歴史を学ぶワークショップをやりたいとおっしゃってましたが、

  歴史に詳しい方はいらっしゃるんですか?」

  原さん

  「それが、なかなか素人の域を超えられなくて…」

  文化財課

  「そういうことなら、県立大学の近藤先生を紹介しましょうか?

  あの方は、運河の歴史を知り尽くしてますよ。

  それに、『歴史まち歩きの会』と組んでも面白い。

  声をかけたら、きっと協力してくれると思います。ちょっと、今、電話してみますよ。」


   環境保全課も負けていない。


  環境保全課

  「清掃活動では、何人くらいの市民が参加してるんですか?」

  原さん

  「そうですね…、一番多いときで30人くらいでしたか」

  環境保全課

  「う〜ん、もっと集めたいですね。そうだ、次号の広報誌に掲載できないか掛け合ってみましょう」

  原さん

  「ホントですか?」

  環境保全課

  「せっかくやるんですから、使えるものは全部使いましょう。

  そうだ、市で用意できる清掃備品があるかどうかも検討してみますよ」

         *

   話し合いが終わって、竹内係長は原さんを玄関口まで送っていった。

   その間、原さんは、しきりに礼を言った。


  原さん

  「どうなるかと思って不安でしたが、おかげさまで、思い描いていた以上にすばらしい企画になりそうです。

  本当にありがとうございました。」

  竹内係長

  「いえいえ、自治体職員として当然のことですよ。  

  原さんに2人の心に火をつけていただいて、むしろ、こちらがお礼を言わなければなりません」

  原さん

  「失礼なことを言うようですが、お役所って堅くて冷たいイメージがあったんです。

  でも、どうやら違うようですね。なんだかワクワクしてきました。これからもよろしくお願いします」


   原さんは深くお辞儀をして帰っていった。

   その後ろ姿を見送りながら、竹内係長もとても満足だった。

 

  

   ● 30年を超える地道な活動

    「あのう…」

    ある日、福田市市民活動課を年配の女性が遠慮がちに訪ねてきた。

    「あれ?原さんじゃないですか!ごぶさたしてます」

   同課の竹内係長が駆け寄っていった。

   以前、市民活動課が開催した「市民活動フォーラム」で会ったことがあるからだ。

   原さんは仲間と共に作った「運河を守る会」で、生活排水が流れ込み、

  どぶ川のようになってしまった運河の浄化や

  その土手に残された文化財の保護活動などに取り組んでいた。

   派手さはないが、その地道な活動は徐々に賛同者を増やしている。

   竹内係長は、「どうぞ、どうぞ」と席をすすめながら、

  「どうされたんですか?なんだか浮かない顔つきですが」と尋ねた。

   「はい、実は…」

   原さんは、書類のぎっしり詰まった紙袋を机に置くと、ぽつりぽつりと語り始めた。

 

  原さん

  「私たちは、今、イベント企画を進めているんです。

  残された文化財を活用しながら運河の歴史を学ぶとともに、

  ゴミ拾いや水質浄化に取り組むエコイベントです。

  その実施に当たって、市の協力を得たいと思ってやってきたんですが、

  どこに行けばいいのかわからなくて…」

  竹内係長

  「そうだったんですか。では、私が関係課に電話を入れましょうか?」

  原さん

  「助かります。よろしくお願いします」

 

 
 【解説】 

   NPOは、自分たちが取り組むべきだと感じた課題に対し活動します。

   その課題は、行政の一つの部署では完結しないことの方が多いと思います。

  ひとつひとつの組織、部署がやれることには限界、制約があります。

  別々にやるよりも一緒にやった方が効果が高いから"協働"するのです。

  こうした相乗効果を生むために、自らの責務として組織の枠を超えて、

  率先して他の部署などと連携
していきましょう。

  きっと、高い達成感が得られるはずです。