

![]()
● “事務的な仕事ぶり”に不満をもつNPO
「やれやれ、だなぁ」
「納得してくれてよかったねぇ」
補助を受けている立山市市民活動推進課の遠藤係長が帰って、
NPO法人子どもを虐待から守る会(以下、守る会)の面々はほっと一息ついていた。
遠藤係長に補助事業の進捗状況について中間報告をしていたのだ。
事業の内容は、市内小中学校の教師たちに啓発用パンフレットを作るというもの。
実際に児童虐待を発見・対応した教師へのヒアリングに手間どり、
原稿作成が予定より遅れていたため、厳しい指摘がされるのではないかとヒヤヒヤしていたのだ。
しかし、遠藤係長は案外あっさりと
「なるほど、ご苦労されてますね」と理解を示し、
「なんとか頑張って、年度内に仕上げてください。こちらとしては、いいパンフレットができれば
OKですから」と激励。
ただ、補助事業の進捗状況だけを事務的にチェックして帰ってしまったため、
NPOの面々はやや不満が残ったようだ。
「でもさ、補助事業以外の話をしても、全然関心示してくれなかったね」
「う〜ん、もちろん補助事業の報告を聞くために来てくれてるんだから文句は言えないけど、
もうちょっと親身になって聞いてくれてもいいのになぁ…」
彼らは一体どんな話を聞いてもらいたかったのだろうか――。
● 消極的な担当者
守る会は、児童虐待をなくそうと、
児童館で育児セミナーを開いて幼児を育てる母親たちとの関係づくりを行うなど様々な活動を展開。
民生委員、医師、保健師、教師などいろんな人々とのネットワークづくりにも取り組んでいる。
そんな中で、
「児童虐待の多くは貧困家庭で起こっているのではないか」という問題意識を持ち始めた。
「虐待を防止するには、貧困家庭を多様な側面から支援していく必要があるとすれば、
われわれはどのように活動を進めればいいのか?」
今、守る会で最も熱い議論になっているのはこのポイントである。
そして、まずは市役所の生活保護ケースワーカーとの協働を模索することにしたのだ。
ところが、福祉事務所に直接アプローチしてもなかなか相手にしてもらえない。
そこで、今日、遠藤係長に相談してみたのだが…
遠藤係長
「う〜ん、急にそう言われましても…
そもそも、貧困家庭と児童虐待の相関関係について明確な根拠があるわけでもないんですよね?」
NPO
「それはそうなんですが…。
そこを明確化させるためにも、ケースワーカーとの協働は不可欠だと思うんです」
遠藤係長
「それは、地域福祉課が所管していますので、そちらに相談してみてはどうですか?」
NPO
「でも、遠藤さんは市民活動推進課なんですよね。少しお力を貸していただけませんか?」
遠藤係長
「と言われましても、私は補助事業の担当ですので…」
NPO
「そうですかぁ…」
こんなわけで、NPOとしては、何ともガッカリな話し合いに終わってしまったのである。
● 「現場を知らないで役人の仕事ができるんですか?」
一方、職場に戻った遠藤係長は木村課長に
「守る会は作業が遅れていましたが、年度内には間に合いそうです」と報告して席につくと、
「お疲れ様でした」と隣席の後輩・小山主査に声をかけられた。
「あぁ、疲れたよ。なんかさ、ケースワーカー紹介してくれって頼まれてさ…
正直、ちょっと面倒だよなぁ」と遠藤係長。
「なんで、ケースワーカーなんですか?」との問いに、
「児童虐待の多くは貧困家庭で起こっているのでは…」という話を説明した。
小山主査は、話を聞きながら表情を曇らせていった。
そして、やや責めるような口調で問いただした。
小山主査
「で、遠藤さんは、その申し出をどうしたんですか?」
遠藤係長
「どうしたって、俺は補助事業の担当なんだから、そこまで関わる必要ないだろ」
小山主査
「断っちゃったんですか?」
遠藤係長
「俺だってヒマじゃないんだよ。いろんな書類つくんなきゃいけないし、
来年度の補助制度見直しに向けた検討もしなきゃいけない」
小山主査
「それはそうですけど…。
でも、僕たちは、NPOが地域の問題解決に取り組んでいるのを補助制度なんかで支援しようと
しているわけですよね?
だったら、問題解決にプラスになるなら、
ケースワーカーを紹介するくらいやってもいいんじゃないですか?
担当課や福祉事務所にちゃんと説明すれば、彼らだって現場に目を向けるでしょう?
そこから協働が始まるんじゃないですか?
もっと現場としっかり向きあうべきじゃないでしょうか?」
遠藤係長
「だから、現場には行ってるじゃないか。
俺は補助事業の中間報告とかそういう機会をとらえて、
年に30回はNPOに足を運ぶように心がけてる。
それ以上何をしろって言うんだよ?」
小山主査
「回数を目標にすることがダメだとは言いませんが、
ただ面談するとかだけじゃなくて、時間をかけてもっと深く付き合っていかないと、
NPOが向き合っている課題の本質を把握することはできないと思うんです。」
遠藤係長
「だから、俺は守る会と補助事業をうまく進めてるじゃないか。それで十分だろ?
役人には役人の仕事がヤマのようにあるんだよ。
そんなにNPOにどっぷり浸かるわけにいかないよ」
小山主査
「現場を知らないで役人の仕事ができるんですか?
だったら、書類やメールだらけの仕事のあり方をやめるべきですよ。
書類つくってる時間があったら、もっと現場と一緒に動くべきですよ!」
*
二人の会話を聞いていた木村課長は、苦笑しながら立ち上がり、
「まぁまぁ、もうやめろよ」と歩み寄った。そして、小山主査をつつきながら、
「そうやってすぐにカッカする癖、なんとかならんか?」と笑い、こう話した。
「まぁ、現場が大事だっていうのは小山君の言うとおりだな。
遠藤君、守る会の頼みごと、もう一回考えてみたらどうだ?
それから、書類仕事が多すぎるというのも、そうかもしれん。
だけど、お互いカッカしても何も改善されんぞ。
そこでだ、勤務時間外にNPO活動に参加してみたらどうだい?
外から役所を見るとおかしいところが見えてくるかも。
役所の変えるべき点が見えてくるんじゃないかな?
そうだ、二人とも、今度の日曜日に、俺が参加しているNPOに遊びに来てみないか?」

| 【解説】
|