熱中手帖。−これまで×これから−

熱中手帖。−これまで×これから− vol.12

「海の植林」で
豊かな海を取り戻したい

一般社団法人 海っ子の森
代表理事 山下 達已さん

「磯焼け」の現状を多くの人に伝えたい

活動の経緯を教えてください。

 私は紀北町で漁師の息子として生まれ、小さい頃から海でアワビやサザエをとったりしてよく遊んでいました。ふるさとの海は、潜ると海藻がたくさん生い茂っていて、足に絡みつくと何か引っ張られるような、そんな怖さを感じるくらいでした。大人になるにつれ、海に潜ることもなくなり、社会人になってからはふるさとを離れたサラリーマンとして暮らしてきました。
 しかし、今から9年ほど前、仕事の関係で鳥羽市水産研究所に行く機会があり、そこで初めて「磯焼け」という言葉を聞いたんです。「磯焼け」とは、海藻の森(藻場(もば))がなくなり、岩場がむき出しになった海の砂漠化のことで、これが進むと餌場・産卵場としている魚が来なかったり、アワビ、サザエ、ウニなどの生物が育たなかったり、地元の漁師さんの生活にも大打撃を与えます。
 子どもの頃に見ていた海藻の森が頭にあったので、最初はまったく想像がつきませんでしたが、実際に磯焼けの海に潜ってみたところ、子どもの時に見たのとはまるで違う、真っ白な海が広がっていました。魚もいないし、いてもウニくらい。そのウニも割ってみると空っぽなんです。エサがないから身が詰まっていないんです。
 水産研究所と漁師さんの海藻を植える取り組みや答志島の藻場造成などの「海の植林」に参加させてもらううちに、豊かな海を取り戻すために、この現状をもっと多くの人に伝えていかなくてはと思うようになりました。そこで、水産研究所に集まっていた漁師さんや研究者といった専門家、学生など少人数のメンバーで、何か市民に対して活動を促すような取り組みができればということで、非営利型の一般社団法人を設立しました。

藻場づくりは生態系づくり

どのような活動をされているのですか。

 海の森づくりにあたっては、自然の石に海藻の苗をくくりつけて、水深3〜5mまで潜って沈めるという「鳥羽工法(*)」で藻場の造成を行っています。コンクリートブロックを沈めるような大規模事業とは違い、自分たちの手で行える活動です。植えている海藻は、主にアラメやカジメ。これらは定着すると5年くらいは大きく茂るので、隠れ場、餌場、産卵場としてさまざまな生き物が集まるんですよ。植えた後は生育調査や魚などによる食害対策など、漁師さんやダイバーさんなど、多くの方にご協力いただき活動しています。海に潜るとなると危険が伴いますし、漁業者の漁場を荒らしてはいけないので、中心メンバーは10名くらいです。
 また、何もない所にどのように生態系ができていくのかというのを、一年を通して子どもや地元の方々に学んでほしいという思いから「海のビオトープづくり」という体験活動も行っています。春に苗付けをし、夏にシュノーケリングでその成長を見てもらい、秋はさらに茂った豊かな藻場を、水中カメラを通して水際で見てもらっています。例えるなら、海版の“野鳥の会”といったところでしょうか。藻場を通して生物の多様性が見られるので、子どもたちにとって良い環境教育になっていると思います。
 海の植林活動についてもっと規模を大きくしたら、という声もいただくのですが、私たちは規模を大きくしていくよりも、活動する人をもっと増やしたいと思っています。海藻を植えるだけではなく、各地の漁村に溶け込んでいろんな活動をする人が増えるよう、自分たちの活動をPRしていくことが大切だと思っています。

*自然石に海草の苗をくくりつけて沈める「鳥羽工法」
海底になじみ、潮の流れが変わる心配もない

自分たちでできることを一つずつ

これから取り組んでいきたいことは何ですか。

 今後もやっていきたいことの一つは、漁業者支援です。市町や大学など大きなところで行っているようなものではなく、小規模ですが、自分たちがお手伝いできることを探してやっていきたいです。
 また、現在、地元の企業さんから声を掛けていただき、企業の新入社員教育として藻場再生の取り組み体験を、3年ほど担当させてもらっています。企業との連携は、今後、もっと進めていきたいですね。
 これまで、「磯焼け」を解決する方法を探る中で、どんどん人とつながり、いろんな人と巡り会うことで活動が広がってきたと実感しています。サラリーマンをしながら地道に活動を続けてきましたが、これからは、後に続く人たちに私たちの足跡をたどりやすくし、今の活動をもっと分かりやすく伝えていくことも必要だと思っています。
 そして、いつの日か「藻場サミット」を三重で開きたいですね。海や海藻のことについて同じような考えや目標を持つ人と交流・応援し合えるような場をつくりたいです。「磯焼け」は今や日本だけでなく世界規模で起こっていることなので、豊かな海を取り戻すためにこれからも海の現状を多くの人に伝えていきたいと思います。

【データ】

一般社団法人 海っ子の森
住所 津市東丸之内26−12(株) エスト内
Tel 059-221-0909
Fax 059-221-0919
E-mail info@umikko.jp
ホームページ http://umikko.jp
代表者 代表理事 山下達已
団体設立年月日 平成16年1月
法人化年月日 平成22年6月
会員数 20人
会費 3,000円