理念と歩みから学ぶ NPO物語

理念と歩みから学ぶ NPO物語 Vol.30

地域社会の良さを社会づくりに生かそう

特定非営利活動法人 大杉谷自然学校
校長(理事長) 大西 かおり

高齢化する地域をなんとか元気にしたい

特定非営利活動法人 大杉谷自然学校の設立の経緯とミッションについてお聞かせください。

 大台町の最奥部にある大杉谷地域では平成11年度に地域の大杉谷小学校が閉校となるなど、過疎高齢化による問題が顕著化していました。それで、平成13年度に環境教育や自然体験を提供しながら、地域を元気づけようと当校が設立されました。当初は「なんとなく、ご高齢の方が多いなあ、若者が少ないなあ」という程度の認識だったんです。しかし、現在、大杉谷地域は人口が300人弱になり、高齢化率が70%の限界集落となってしまいました。今、手を打たないと地域が消滅してしまうのではという不安は地域の人の中にも芽生えてきている状態です。 
 三重県内には他にも限界化して消滅の可能性のある地域がたくさんあると思うのですが、このような地域にこそ、現在の社会や人が学ぶべき素晴らしいことがたくさんあります。この大切な未来へのヒントを伝えて、社会づくりに役立つということが当校のミッションです。

廃校校舎を活用した大杉谷自然学校

限界集落対策

活動の中で特に力を入れていることはどんなことですか?

 地域の課題を踏まえてここ数年特に力を入れているのが、限界集落対策です。大杉谷地域は今、何か対策を講じないと将来消滅する可能性の大きい地域です。「地域が一つ無くなる」ということは、地域に伝わってきた伝統や技術、生きる知恵のみならず、そこに暮らす人々の気風のようなものが失われてしまいます。ですから、私たちというより、社会全体にとって地域の消失は非常に損失が大きいんです。

行政との協働で心がけてきたこと

行政との協働はどのようにすすめてきましたか?

 この限界集落を少しでも食い止めるためには、若者のIターンの誘致が不可欠です。このような大きな問題に立ち向かうのはNPOだけでは力不足であることを実感し、3年前から大台町と協働しながら事業を展開するようになりました。
 行政との協働という点で私たちが心がけてきたことは、「自分たちがこういうことをやりたいから支援してください。だからお金をください」ではなく、「具体的な課題をあげ、その活動内容とともに、自分たちはここでこれだけの成果をあげることができる。だから応援してほしい」と伝えることです。
 私たちとしては、無償で事業を実施することは「協力」であるかも知れませんが、「協働」ではないと考えています。その事業に必要な資金面での応援もしていただいてこそ、初めて本当の「協働」であると思っています。当校の設立から関わり、地域の課題に対して常に協働で事業をしていただける大台町は大変理解があるということですね。小さなNPOでは実施できない事業を展開する、地域を変えるためにはやはり行政との関係や地域の方との本当の協働は欠かせないことです。

ニーズを作り出すということ

地域やプログラム参加者のニーズについては、どのようにお考えですか?

 もう一つ私たちが事業展開で気を付けていることは、「社会のニーズ」についてです。ニーズというのは一般の方が既に心で認識しているからこそ社会に出ているわけです。ところが、私たちNPOというのは、ニーズをとらえることよりも、むしろ「ニーズを作り出す」ということが重要だと考えています。だから私たちは「これから必要だ」と思うことを先回りして提供することが結構あります。
 既にニーズがあるものに関しては、当たり前ですが、実施すると必ず人が来ます。ですが、「この部分は社会に伝えたい!」という強い思いがあって、企画してみて、「人が来なかった。がっかりだけど、やっぱりな」という事業もあります。例えば、地域の民泊にご厄介になったり、講師として高齢者の方にご登場いただく「孫さんクラブ・キャンプ」という事業があって、もう10年以上継続しています。
 今でこそリピーターが9割以上を超える人気事業となっていますが、実施し始めた当初は今ほど地域の魅力や重要性、教育力が一般に広がっていなかったので、参加者は数人ということがよくありました。10年の間に社会的にも地域の素晴らしさが広く認められてきたのです。
 「人が来ない=ニーズがない」と実施をやめていたら、多分地域の魅力こそ大切という私たちのメッセージは伝わっていなかったと思います。もちろん伝え方が悪い時は受け入れられない場合もあると思いますし、もちろんメッセージが間違っている可能性もあると思います。ですが、自分たちが目指す社会に必要なニーズだと感じることは間違いがないことを検証しつつ、人の来る来ないは二の次として、継続する必要性はありますね。

孫さんクラブ・キャンプの体験プログラムの様子 子ども・大人・家族など、
さまざまな対象に向けたプログラムを展開

キーワードは「面倒くさいけど良い社会」

今の社会に必要なものという視点をあげるならば、どのようにお考えでしょうか?

 私たちが理想としている社会の形とは、高度成長期以前、地域社会が持っていたような良さというものを再評価する社会です。地域の人々との接点が深く、人が助け合っていろんなことを成し遂げてきた地域社会、そういった形が理想です。
 今の社会ってお金で解決出来ることが昔に比べて非常に増えてきていると思います。例えば葬儀は地域で出すものでしたが、今、地域で行う葬儀が激減しています。大きな斎場に行くようになったのですね。そうすると、人々のお世話にならなくてもいいわけです。昔は人との繋がりがなければなしえなかったことが、今の社会ではお金があれば補えることになるわけです。それでも悪いことはないんです。だけど、昔は地域の人の協力がなければできないことがたくさんあった。
 例えば田畑の石垣積とか道や水路の整備などですね。そういう備えのために地域で密に一致団結してきた。それが田舎の良さである反面「面倒くさい」ところでもあったわけです。だけど、それが全くなくなって、人の協力じゃなくて、お金で解決できるようになってしまうとやっぱりそれはそれで寂しいかなとも思います。
 だから、お金だけでは解決出来ない社会に、もう少し戻ってもいいのではないかなと思いますね。「面倒くさいけど良い社会」ということですね。その部分を担当するNPOが誕生してきたという背景は、理解できる社会構造ではないでしょうか。

 

【データ】

〒519-2633 三重県多気郡大台町久豆199
Tel 0598-78-8888
Fax 0598-78-8889
E-mail osn@ma.mctv.ne.jp
ホームページ http://osugidani.jp/
代表者 理事長 大西かおり
団体設立年月日  2001年4月1日
NPO法人化年月日  2007年8月14日
会員数 正会員10名
会費 無料