理念と歩みから学ぶ NPO物語 vol.9
組織にスポットライトをあて
三重県内の市民活動団体を紹介していきます。


特定非営利活動法人 フリースクール三重シューレ
語り手 石山佳秀(代表)

互いを尊重するフリースクール
……新しい価値をつくりだしてきたフリースクール三重シューレ(以下、「三重シューレ」と略)のミッション、活動内容を教えてください。
月曜から金曜の10時〜17時までフリースクールをオープンしています。小学生以上の子どもたちが通い、さまざまな講座を受けたり、仲間と交流したり、それぞれ自分にあった生活を送っています。
私たちが子どもたちに用意しているのは、「安心できる居場所」「信頼し合える仲間」「自己決定できる環境」です。これがあれば、子どもたちは成長していくと確信を持っています。
……入会までの流れは?
まず保護者との入会相談を2〜3時間かけて行います。保護者も、子どもが不登校になったことで苦しい時間を過ごしていますので、じっくりお話しを聴き、その上で、子どもの視点に立った話をさせていただいて、「これからの子どもの成長を支援するにはどうしたらいいのか」を、ご一緒に考えます。
ここで保護者に伝えたいのは「子どもの成長を心から信頼する」、「親自身が自分の人生を楽しく生きる」の2点です。多くの子どもにとって、人間のモデルは親です。「うちの親は、トータルで楽しそうに生きているな」と思えるような生き方を保護者自身も考えていただきたいです。
……子どもへのアプローチはどのように?
保護者から紹介していただきますが、この時に「期待をこめずに紹介して欲しい」とお願いしています。
保護者が三重シューレに来る時は、子どもが学校に行くことをある程度あきらめて、それでも子どもの居場所を確保したいと思うからこそ訪れるのですが、それだけに「学校は無理でも、せめてフリースクールには行って欲しい」と期待しがちですし、それは子どもにも伝わります。そんな状況で、フリースクールに行くことを子どもが受け入れられなかったとしたら、子どもの自己否定感はより大きくなってしまいますから。
……入会相談後の入会数は?
説明後、子どもが見学に来るのは3分の2か、2分の1ですね。見学は4回までできるのですが、入会するまでに更に数は減っていきます。子どもが望まないこともありますし、外に出られるような状態にないこともあります。また、親子関係が悪化しているため、親の紹介先に行く気にならないことも。三重シューレの情報が、親子関係が悪化する前に伝わっていれば、子ども自身がこんなに苦しまなくてすんだのに…と思うこともよくあります。
……保護者との関係も大切ですね。
私は子どもが入会しても、「フリースクールに今日は行った、行かない」で、一喜一憂しないで欲しいとお話しします。変わらないまなざしで子どもを見守ることを心から理解していただけば、不安はなくなります。
また、家庭で子どもを問題視している限り、子どもは安心して育ちません。基本的にでしゃばりたくはありませんが、子どもを見ていると、親の様子がわかりますから、必要な時には連絡させていただきます。
親同士の集まりを定期的に行ったり、場合によっては個人面談も行います。親も支える、もしくは一緒に学び合っていくことは大きな課題です。
……子どもたちとの関係は?
子どもたちとの活動の部分は、対等の関係ができていますからあまり苦労はありません。当たり前の人間同士、尊重しあえれば、最初は戸惑った子どもたちもなじんできます。
あと、「評価しない」というのが大きいかもしれません。学校の場合は、通知表もあり評価することが前提ですし、昨今は厳しい自己責任の社会になってきて、評価のまなざしも学校や親だけでなく、子どもたち同士でもありますから、とてもしんどい状況にあります。私たちは子どもたちを叱りもしなければ、褒めもしません。もし、ここで私が子どもを褒めたら、今度は私に評価されるために頑張るようになってしまいます。褒めなくても、自分の存在が認められていればいい。心がけているのはそれぐらいでしょうか。
……そうは言ってもご苦労があるのでは?
時々、「不登校の子どもたちを受け容れるのは、大変ですね」と言われますが、全然大変じゃないですよ。「お互いを尊重する」という関係が三重シューレではできていますからね。
あと、「子どもたちのために…」とも言われますが、私は「子どもと自分のため」にやっていると思っています。私自身、納得できないことに行動を合わせることができずに何回も転職をしています。これって、不登校の子どもたちと同じですから。
子どもの権利条約フォーラムでライブを行いました

行政、企業と繋がることで活動を広げる

……先駆的な活動ですが、活動を続けることで社会に及ぼしてきた影響についてはどうお考えですか?
私たちの活動が子どものためになる情報を発信できたかというと、自信はありません(苦笑)。特にここ数年の社会不安によって、「学校に行かないもう一つの生き方・学び方」「じっくり休む」という多様性が認められなくなってきているということもあり、社会の大きなうねりの中で、無力感を感じることは正直、あります。
……でも行政や企業との協働を切り拓いて来られましたでしょう?
教育委員会などには随分、ご理解いただいていると感じます。三重シューレのフリースクールに通っている子たちは、学校長の判断で例外なく所属している小中学校の出席日数扱いになっています。
三重県こども局とも今回、サタデーフリースクール(今年度の委託研究事業)という活動で協働することができました。この活動にはソネットエンタテイメント株式会社(以下、「ソネット」と略)にもご協力いただいています。
……その他の企業との関係は?
これは全国でも例がありませんが、三重県遊技業協同組合にはフリースクールの場所をオープン以来ご提供いただいています。
三重銀行には子どもたちの写真展開催にお力添えをいただきました。皆さん、当初は不登校について何もご存じありませんでしたが、私たちの活動の意義や子どもたちの様子をご理解いただいて、温かなまなざしでご支援いただいていることが伝わってきます。
この他、三重県小児科医会やあすなろ学園からも応援していただいています。
……サタデーフリースクールとは?
私たちは当事者の視点から、月曜から金曜のフリースクールが一番必要だとこだわってきたのですが、ここ数年の急激な社会変化によって当事者のニーズに応えられていないのではと思うようになりました。保護者にはシングルマザーや共働きの方も多いので、平日に子どもたちをここまで送迎することができないこともあります。そこで、土曜日にフリースクールを開催することになりました。
ただ、いきなり始めても誰も知っている人がいない、初めての所に子どもたちが足を運ぶのはハードルが高いので、ソネットが運営しているインターネットサービス「リヴリー」を利用して、コミュニケーションも取れるようにしています。
「リヴリー」というのはインターネット上で、「リヴリー」と呼ばれる架空のペットを育成するサービスなのですが、このペットを通じて、他の参加者とゲームや会話を楽しむことができるようになっています。予め、ネット上で仲良くなれれば、実際に会うことに対して心理的なハードルが下がるでしょう。実際、入会相談をしてみたら何年もひきこもっている子どもが多くいました。
ソネットが全面的に応援してくれていますが、「商品が不登校の子どもの役に立つとは考えもしなかった」と、喜んでくださって、社内報にも取り上げていただきました。ゲームやパソコンは子どもたちのコミュニケーション能力を削いでいるという大人のマイナスイメージがありますが、実際に使っている子どもたちを見るとコミュニケーションの入口になると感じています。
数学や美術など、さまざまな講座があります

不登校当事者の声を社会に届ける

……社会全体へ及ぼしていく影響については、どう考えられていますか?
フリースクール運営と共に、大切に思っているのは、不登校の子どもたちに対する社会の厳しい目を変えたいということです。今のままでは、当事者の自己否定感が大きくなるだけです。
不登校は声なき声の典型的分野です。県内でも小中学生で約2000人。高校生でも1000人が不登校と数えられていますが、子どもたちが家にひきこもっているために、問題が外に見えてこない。ですから、不登校当事者の声を発信することも私たちにとっては非常に重要だと位置づけています。
……具体的な活動は?
教育委員会とご一緒に、当事者が語る不登校フォーラムも3〜4年行いました。今も時折、教頭先生や教育指導の先生が集まる場などで、お話させていただいています。フリースクールの様子や具体的な子どもたちのケース、親の声など当事者の姿と声を届けています。
私たちの活動が子どもたちに伝わるかどうか。そのために一番重要な役割を担っているのは現場の先生方です。活動やイベントの案内チラシは学校に届けますが、それを不登校の子どもに渡すかどうかを決めるのは先生です。なかには私たちのチラシを子どもに渡すことで、「自分や学校が不登校の子を切り捨てたと子どもと保護者がうけとるのでは…」と、考えられる方もありま す。学校の教師の良心として、臆病になってしまうのでしょう。
その価値観と教育制度は大きな壁です。私たちは学校教育法の外にありますから、先生たちのご協力が必要です。三重シューレでなくてもいい。先生たちが学校以外に居場所を作ろうとするのもいいと思います。県内だけで不登校の子が3000人もいて、しかもその割合は増え続けています。その子たちが「今、生きる。学ぶ」ことを最優先に保証しなくてはいけません。
……今後の目標は?
大きな目標になりますが、「不登校になっても、三重県の子は安心して育っている」と周りから言われるような県にしたいですね。不登校だけでなく、保護者が忙しく子どもの面倒をみられない、食事の準備もできないなど、大変な時代になっています。でも、この世に生まれた以上、子どもの教育の機会は質量とも平等であるべきですし、人間の権利として、未来への投資としても絶対に保証しなくてはいけないことだと思っています。声なき声である不登校の子どもたちの教育が保証されるようになったら、それは社会と教育全体が底上げされることだと思います。不登校だけでなく、子どもの未来全体を子どもの視点で考える人たちと一緒に、活動をしていきたいですね。
【データ】
514-0006 三重県津市広明町328番地 津ビル1階 
Tel.059-213-1115
Fax.059-213-1116
E-mail npo@mienoko.com
ホームページ http://www.mienoko.com/
●代表者 石山佳秀
●団体設立年月日 2002年5月
●NPO法人化年月日 2002年10月
●会員数 110名
●会費 正会員5000円 賛助会員2000円
おねがい
市民活動・ボランティアニュースに情報を提供される際、以下のことにご留意のうえ、積極的なご活用を期待しています。
(1)原稿はニュースにそのまま掲載できる状態にして、毎月10日までにお送りください。
(2)送付はE-mail(ない方はFAX)で。その際、「市民活動・ボランティアニュースへの掲載のお願い」と件名を明記してください。
E-mail center@mienpo.net Fax.059-222-5971


転載を希望される場合は必ず「みえ県民交流センター指定管理者:みえNPOセンター・ワーカーズコープ」に連絡してください。
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