理念と歩みから学ぶ NPO物語 vol.7
組織にスポットライトをあて
三重県内の市民活動団体を紹介していきます。


特定非営利活動法人 三重ダルク
語り手 南川久美子(理事長)/市川岳仁(常務理事)

依存症当事者の回復コミュニティ
……三重ダルク(以下、「ダルク」と略)のミッションと活動内容は?
市川/薬物依存症の回復の手助けをしています。相談を受けるところから始まり、実際に本人や家族を回復に必要な資源に繋げたり、ダルクでセラピーやリハビリテーションをしたりして、それぞれの段階に応じた支援を継続的に続けます。相談は本人、家族、専門職からの相談も多いですね。
 あとは行政や司法、医療、教育の現場に講師の派遣。4年前から全国的な取組として刑務所へダルクのプログラムを提供することになりましたので、三重刑務所での教育も行っています。
……薬物依存とはどういうことですか?
市川/覚醒剤や麻薬といった法律に触れる薬物が問題にされがちですが、精神安定剤や睡眠剤、鎮静剤などの薬も含まれます。薬物依存は意志の問題だと誤解されやすいのですが、依存症はアルコールやギャンブル、買い物など、いろいろな症状があり、その一つが薬物なだけです。
 また、依存症は医療行為では治せず、依存症当事者のための回復コミュニティに参加することが治療法としては世界的なスタンダードです。
……回復コミュニティとは?
市川/依存症という問題に向かい合って回復した人と、現在、悩んでいる当事者が一緒に参加することで、当事者は回復のビジョンが持てますし、当事者同士だからこそわかる本当に必要な支援を受けられます。自分が回復してきた時には、それを次に伝えてもらいます。これは 1930年代初頭にアメリカで始まったアルコール依存症のプログラムで、依存症治療として世界的に広まっていますが、日本ではなかなか取り入れられませんでした。
……その理由は?
市川/偏見と差別でしょう。日本人は精神論が好きだから(苦笑)。問題がある時には早期に手助けを求めればいいのだけれど、それ自体が弱さを認めることになってしまうので、できない。これも一つの偏見で、治療が遅れる原因の一つにもなっていますね。
……偏見を無くすことも、ダルクの活動ですか?
市川/意識改革自体は目的ではありません。ただ、ダルクが活動を続けることで地域の人たちの理解は変わっていくでしょうし、偏見が続く社会では、当事者が変わったとしても、本当の意味での回復はありません。リハビリテーションの意味は、薬をやめることではなく、人として、地域住民としての尊厳を取り戻すことです。
……ダルク以外の受入れ団体は?
市川/公的に薬物依存を治療する施設はありませんし、病院や刑務所で治るものではありません。肉体的なダメージのケアや、薬物が急激に切れる時の症状を病院で管理してもらう必要はありますが、それで依存症が治るわけではないので、ダルクにバトンタッチする連携が必要です。
……ダルクは唯一の拠り所?
市川/僕もそうでしたけど、当事者以外に本当のことは言えません。「パチンコで朝から3万円すって、サラ金で借りた。期限が迫っているけど、仕事もなくて払えない」ってね(笑)。でも、それが当たり前に起こるし、本当に困っていることでもある。ダルクは当事者の集まりですから、本当のことが話せるし、一緒に考えられます。それがダルクの役割であり、意義。
 薬がやめられないことで、みんな散々、責められてきています。その事実を認めたうえで、これからどうするかを考えていける。本人の生活や価値観に踏み込んで、一緒に育っていける仲間がダルクですから。
……刑務所で活動するようになったのは?
市川/百年間続いた監獄法の改正に基づく法務省の決定で、平成17年から全国の刑務所で、ダルクのプログラムを導入することが決まりました。
 薬物依存症は再犯率が高いのですが、それは当たり前。依存症の人に対して、ケアもせずに出所させても、問題の根本は解決していませんから、また薬物を使いますよね。そのことにようやく国が気づいた。
 今年から、刑務所での刑期を半分に切り詰め、残りの刑期をダルクなどに任せることになりました。刑務所で服役するよりも、法的拘束力のある期間内、保護観察しながら、治療していこうという考えに、法務省が切り替えました。
……どのような手続きになるのでしょう?
市川/刑務所に入っている薬物依存症の人は、実は軽度の知的障がいや精神障がいを持っている人が多い。その人たちの出所後をサポートする定着支援センターが、保護観察所とのコラボレーションで誕生します。これは司法福祉の視点です。そのなかで、薬物の人はダルクを紹介してもらうとか。
南川/刑務所入所中から福祉サービスを受けられるようになれば、満期出所ではなく、ダルクのような施設が引き受け人となって仮出所からサポートすることもできます。
市川/満期出所ということは、仮出所の時に引き受けてくれる人がいなかったということですから。これからはダルクが引き受ける場面も増えるでしょう。
南川/今回、満期出所の方の応援をしましたが、地域の壁が大変でした。どこがお金を出すのか、面倒を見るのかって。どこも引き取り手が無かった時に、一時的にダルクに預かってもらえれば、その間に保護申請など、行政手続きもできます。

地域と関わりながら、回復を目指す

……三重ダルクの設立は?
市川/東京でダルクが始まったのが25年前で、三重に設立したのは11年前。現在、全国50数カ所にダルクの施設がありますが、三重は17番目の施設ですから、かなり早かったですね。
……11年間の成果は?
市川/回復して地域に戻る人を輩出していること。また、三重ダルクの場合、三重県の人に使ってもらっているのが特徴ですし、それがちょっとした誇りでもあります。ダルクの場合、地元の人が地元のダルクを利用するよりも、他の地域のダルクに住み込みで行くことが多かったりするので。
……事務所も変わっていませんね。
市川/手狭なので、もっと大きな建物に移る話もあったのですが…。ただ、一度でも三重ダルクを訪れた人が、再び、訪ねて来る時に、同じ場所にないというのは、ちょっと僕にはできませんでした。
……運営費の苦労などは?
市川/幸いなことに設立当初はカトリック信者の方たちに助けていただき、県内外の方からの寄付などで活動を続けることができました。その後、97年に精神保健福祉法の中で、依存症が精神障がいとして定義され、ダルクが精神障がいの福祉施設として位置づけられました。それ以降は福祉分野の補助金や事業を申請して、活動を続けています。
南川/その後、自立支援法が施行されて、施設として認可してもらうためにNPO法人化しました。私が理事長になったのも、このタイミングです。
……設立者の市川さんではなく、南川さんが理事長になった理由は?
南川/市川さんは実働部隊なので(笑)。それを受けとめる理事長が必要ということで、私がなりました。
市川/理事長はそれなりに大物じゃないと。南川さんは三重県社会福祉士会の会長で、精神保健福祉士。この業界ではメチャクチャ有名です(笑)。
……南川さんが公的な部分との繋ぎ役ですか?
南川/それは、三重県こころの健康センターです。
市川/協働という言葉を僕は好きじゃないんですが、パートナーシップと考えるなら、三重ダルクは三重県こころの健康センターと比較的いいパートナーシップを持っています。そういう意味では日本で一番、協働を意識しているダルクだと思います。
……それはなぜでしょう?
市川/三重県には男女共同参画・NPO室があったからでしょう。常にNPO、パートナーシップという言葉を聞かされつつ、現場で活動してきましたから。
……三重ダルクは他のダルクに比べて、組織がしっかりしている?
南川/組織は脆弱ですよ。だからこそ、いい。
市川/NPOの秘訣は「ダメ」と言われてもやっちゃうくらいバイタリティのある実働部隊と、基本的に受けとめてくれる理事長。
南川/参加者の中から意見が出たら、自主的に動けるでしょう。だから私は、イエスマンに徹してます。
……今後の展開は?
市川/今年から、東紀州で新しいプロジェクトをスタートします。メンバーが共同生活できる拠点を作り、地元の農業などを手伝うことで、雇用の場をつくり、社会復帰の足がかりにする活動です。
 対人スキルが低く、一般就労が難しい依存症の人を社会の一員として、尊厳を持って取り込んでもらうにはどうすればいいか。
 また、ダルクを支援してもらうだけでなく、ダルクが地域に入ると考えた時に思いついたのが、過疎化・高齢化している地域でのお手伝いでした。地域に必要とされればメンバーも気持ちよく働けるし、地域の方も人手不足や高齢者問題が緩和されれば、ウエルカムになってくれる。これは三重県の平成21年度NPO活動基盤強化事業として採択されました。
……東紀州を選んだ理由は?
市川/東紀州の人から相談が来ても、遠くて実際に来ることができなかったり、治療を終えて帰ってから、繋がりが途切れてしまったりということがありました。東紀州に拠点があれば、地元で社会生活を送りながら、継続して関係を持つこともできますし、一番最初の相談もしやすくなります。
……全国的にも先駆的な取組では?
市川/かなりね。薬物で自分を守って、生き延びてきた人たちにいきなり社会に出ろというのは拷問。そんな人たちが安心して働いて、自分も地域にとって必要な人材だという感覚を育てていきたいですね。
南川/刑務所から出てきたばかりの人や、薬物を止めて数年経つけど、いろいろあって疲れている人たちがちょっと休んで、ここで元気になったら、次は自分の住みたい場所へ進んでいく…。
市川/ダルクのメンバーのほとんどは介護ヘルパーの資格を持っていますから、そういう部分でも地域の方のお世話ができます。元々、とても優しい人たちですから、いい人材になりますよ。
……事業の期間は?
市川/2年半。その間に根付かせなくちゃ。県でのプレゼンテーションの時は「大丈夫」と言いましたけど、何が大丈夫なのか、僕もわかっていない状況(笑)。
……ダルクという当事者同士の団体が、それ以外の人の中に入っていく試みですよね
市川/依存症治療はカウンセリングやセラピーなど、当事者でないとできない部分が厳密にあります。でも、当事者だと名乗ると第三者に、専門性を否定されることがあります。僕もどれだけバカにされたことか。依存症をよく知っている当事者が、一番低いポジションに置かれることへの憤りが僕にはあり、それは多分、NPOマンとしての憤りです。それなら第三者の言う専門家になってやろうと思って、国家資格である精神保健福祉士を取りました。
 でも、当事者だけが集まって活動していることを健康的だとは思いません。今回のようなコミュニティづくりはダルクだけでできるものではなく、みんなでやっていく必要があります。僕自身の役割も依存症のカウンセラーから、コミュニティを作っていく役割にシフトしかかっているように感じています。
三重ダルク事務所


【データ】
津市丸之内1-16
Tel.&Fax.059-222-7510
E-mail miedarc@zc.ztv.ne.jp
ホームページ http://npo-miedarc.cocolog-nifty.com/blog/
●代表者  南川久美子(理事長)、市川岳仁(常務理事)
●団体設立年月日 1999年3月1日
●NPO法人化年月日 2005年2月
●会員数 ―
●会費 ―
おねがい
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