理念と歩みから学ぶ NPO物語 vol.6
組織にスポットライトをあて
三重県内の市民活動団体を紹介していきます。


ウィリアム・テルズ アップル
語り手 中村伊英さん(代表)

「NPO」という言葉が後からついてきた

……ウィリアム・テルズアップル(以下、「アップル」と略)が誕生したのは?
 阪神・淡路大震災の1年ほど前です。まだ、NPOという言葉が一般的でなく、市民が自主的に取り組む活動分野も、地域の文化の掘り起こしが中心。活動団体も地域の青年団や町内会、青年会議所などの経済団体といった既存の団体が活動しているだけという状況でした。
……新たに団体を作った理由は?
 既存団体の場合、命令がトップダウンで、組織として結論を出すまでに、個人のアイデアが削がれてしまうことがあります。それに、単年度制の活動では、その時々で一番社会的に必要だと思われることに対応できなかったり、有効な部分もある一方で弊害もあると感じてました。
 私も含め、仲間がそれぞれにやりたいこともあり、それを実現させるためにも、個人の発想が上手くまちの活動に活かされる団体を作りたかったのです。
……それが「NPO」という言葉と上手く合った?
 新聞記事にNPOの概念が紹介されていて、これは使えるなと(笑)。
……個々の活動をどうやって繋いだのですか?
 様々な情報を収集、集約したり、それぞれの活動を手伝い合ったりするために、場所を借りて、人を置くことを考えました。“場所一つ、ひと1人、電話一つ”、この事務所を設立してすぐに、日本海重油災害が起こりました。
 私は個人的に、阪神淡路大震災にボランティアとして参加していたので、新聞社の方から「重油は行かないの?」と声を掛けられました。NPOの看板を掲げている以上はと、出かけてみたら、現場は情報が大混乱。戻ってすぐに情報発信を行いました。それが新聞に取り上げられたら、電話がジャンジャン鳴って…。
 その時初めて、この活動は社会的なニーズがあると実感しました。この一件がなければ、アップルの活動は続いていなかったと思いますね。
……当時、有給の事務局員を雇ったのは市民活動団体では先駆的でしたね。
 青年会議所では、みんなでお金を出し合って、専従事務局員を雇っています。青年会議所出身のメンバーが多かったので、そのスタイルにすることに抵抗はなかったですね。また、体制をきちんとするためには、当然必要となりますし。
……アップル設立当初の役割は?
 今で言う「中間支援」ですね。事務局代行や会議室の貸し出し、情報を発信、共有したり…。設立当初は「中間支援」という言葉もイメージもなかったので、活動内容を細かく説明しても、わかってもらえなくて、「わかりにくい活動は続かないよ」と言われたこともありました。私は「いや、そんなことはない」と心の中で思いながら続けてきましたね。そうなると、とにかく活動を通じて理解をしてもらうしかない(笑)。
 設立から6年経った頃、転機が来ました。活動維持のための資金が無くなり、アップルをやめようという話が出てきました。しかし、アップルが無くなったら活動自体が立ちゆかなくなる団体がいくつかあり、その状況ではやめられないなと。それで、お金がないなら、外で稼ぐ方向で活動を見直しました。
……それまでの主な収入は?
 会費と事務局代行の手間賃ですね。利用団体からはすごく喜ばれましたが、スタッフの休日でも、自分の会の会員数や会計残高などの問い合わせが来て、これは違うなあと。アップルは自立支援をしたいのであって、「おんぶにだっこ」の団体を増やしたいわけではなかったので、3年ぐらいかけて事務局機能を各団体に返していきました。もちろん、収入は細っていきましたし、団体からは「事務局代行が無くなったら、うちの会は潰れる」とまで言われましたけれど、何度も思いを伝えた結果、それぞれの会 で議論をしてくださり、役員で持ち回ったり、いろいろ工夫していくことで、「自分の会のことが見えてきた」とまで言ってくれるようになりました。
……アップルの仕事を減らしていくことで、存在意義が揺らぐこともあるのでは?
 中間支援活動がいつか無くなることこそが、一番いい社会だと認識していますから…。誰もが当たり前のように自己実現できて、まちかどに市民活動の情報があふれていて、問い合わせれば情報を教えてくれる場所が当たり前のようにあれば、アップルは必要ないでしょう?アップルを立ち上げた時に「NON-PROFIT ORGANIZATION」の「ORGANIZATION、組織」ではなく、「FUNCTION、機能」であればいいなと思っていました。地域の中で一定の役割を果たすために、一番相応しい形になっていければいいわけです。
 決して決まった型があるのではなく、活動の数だけ、柔軟に対応することが有意義な支援につながることも、アップルの活動を通じて実感しました。
ウィリアム・テルズ アップル事務所

民設民営・公設公営 中間支援の役割分担

……行政との関係は?
 アップルができて、問い合わせが多かったのは行政から。旧上野市時代に市の活動を他の市から聞かれるだけでなく、市の職員が他の部署の活動について問い合わせてくることもありました。
 行政間というか、市役所内、県でも情報は共有されていないし、風通しが悪いものですね。
 事務局代行をしていたこともあり、知名度だけはどんどん上がっていきました。行政から審議会の委員などの依頼があり、従来のあて職ではなく、各審議会別にふさわしい知識と経験のあるメンバーを人選しました。旧上野市の時代には、市の総合計画のリーフレットにアップル関係者で記事を組んでもらったこともありました。
……伊賀市には伊賀市市民活動支援センター(以下、「伊賀市センター」と略)が設立されましたが、相談はありましたか?
 もちろん。担当者と話し合った結果、検討委員会にメンバーが入り、設立されてからは市民活動コーディネーターとして約4年間、関わりました。
……アップルが伊賀市センターの運営委託を受けて、イコールになる方法もあったのでは?
 イコールにはならない方がいいでしょう。
 また、少し性質の違いもありますし。伊賀市センターができる時に、アップルが担っていた機能を引き受けてもらえれば、役割を終えられるかもしれないとは思いました。
 これまでの経験から事務局代行や郵便物の管理などが喜ばれていたので、いろいろ提案してみたのですが、その経過で見えて来たのは民間が柔軟に対応できていた部分に関して、行政は対応できないということでした。行政は公平がモットーですけれど、アップルなら必要とされている業務を必要としているところに届けられますから…。これらの違いを検証するうちに、必要とされているうちはやめられないと感じましたね。
……業務の区分けはどうしていますか?
 伊賀市センターではメールボックスの設置と部屋の貸し出し。自治活動や市民活動団体等が無料で使える場所と、有料の会議室があります。資機材の整備も充実されてきましたね。アップルではこれらの資機材の整備は到底無理ですから、ありがたい機能であると思います。また、常時、開館時間内は職員が常駐されていることも、アップルでは厳しいところでもありました。いくつかの空き家を借りて、会議室の貸し出しをしていましたが、これも行政サイドで整ってきていますので、アップルとしては終了しました。ただ、言葉的には同じように聞こえますが、ネットワークは若干異なりますので、情報を繋ぐ機能を残して、連携を図っています。
……伊賀市センターとも良好な関係を築いているのですね。
 社会福祉協議会(以下、「社協」と略)とも設立以前から連携を密にしてきましたし、市民活動を支援するという同じ立場にあるので、伊賀市センターとも三団体で連携は取れていますね。それぞれのメンバーが、個々の活動を通じても社協や伊賀市センターと連携することも多々ありますし、毎月、三団体が集まる会をアップルが主催して行っています。
……具体的には?
 そこで情報交換したり、依頼を得意分野で振り分けたりしています。例えば、「パチンコ屋さんが社会貢献をしたいという問い合わせが来ている」との話題が出されたら、「一度にたくさんの人を出すのではなく、就業シフトの中で対応して、少人数の人を出したい」と趣旨や条件など相談を受けた機関の担当者から伺い、「小学校の登下校時に見守り役として一人、町に立ってもらっては」「今、募集している活動には○○などがある」など、様々な可能性が異なる立場からの視点で出されます。それをまた相談者に担当者から連絡をするといった、依頼や相談に対するケース検討の場として機能しています。また、対応については、一番適したところが中心となって進めるしくみが出来ています。
……これは伊賀市を対象にしているのですか?
 市民活動には、地域限定と地域を越えるものがあります。そのため、伊賀地域として伊賀市と名張市のそれぞれ市の担当者と社協の担当者などを中心とした集まりで開催しています。もちろん、他市町や県内外の情報共有もします。エリアを決めるのは支援する側ではなく、情報を受けとる側ですから。
……特徴ある活動の一つにはどんなものが?
 芭蕉さん生誕360年事業から引き続き行っている『伊賀び〜と』という情報紙の発行も社協と伊賀市センターを中心に取り組んで行っています。2004年度で事業が終了したため予算は無いのですが、できあがり原稿をメールで送り、編集や会議をインターネットで行うことで時間を削減。完成版もインターネットにアップロードして、それぞれが必要な部数だけ印刷することでコストを押さえています。この方法ならお金を 出し合わなくても、各団体の消耗品費で対応できますから(笑)。1つの団体が情報紙を発行することはたくさんあっても、多様な主体で取り組んで作っているのは、あまりないそうですね。伊賀では当たり前のように進めることができました。
……今後の活動に欠かせないことは何ですか?
 住民自治活動と市民活動、行政や企業などとの協働や連携などが大切になってくると感じています。意識していてもいなくても、自分たちの生活にはあらゆる団体や組織の存在があり、そのお陰で成り立っています。アップルも、リンゴを切り分けたように様々な活動があるけれど、全てがあって一つのリンゴを形作る、というイメージを持っています。今後は議会との連携が弱いことなどもいろいろな場で話題として出ていますので、課題の一つでもありますね。
……変わった名前ですが、会の名称の由来は?
 あまり迷わずに決めました(笑)。童話のウィリアム・テルをご存知ですよね? 子どもの頭の上に乗せたリンゴを射抜くという場面があります。失敗して子どもに当たれば大変なことになり、また全然的が外れると二人とも命を落とす。二人の命を未来へつなぐには、あのリンゴしかない。アップルも、様々な問題や課題の多い世の中で、未来へつながる拠点として名づけました。インパクトはあるのですが、うろ覚え、という方、多いですよ(笑)。
伊賀び〜と

【データ】
三重県伊賀市下郡199番地
Tel.0595-24-7612
Fax. ―
E-mail nagi_47_4_3@yahoo.co.jp
ホームページ ―
●代表者 中村伊英
●団体設立年月日 1996年4月11日
●NPO法人化年月日 ―
●会員数 20人
おねがい
市民活動・ボランティアニュースに情報を提供される際、以下のことにご留意のうえ、積極的なご活用を期待しています。
(1)原稿はニュースにそのまま掲載できる状態にして、毎月10日までにお送りください。
(2)送付はE-mail(ない方はFAX)で。その際、「市民活動・ボランティアニュースへの掲載のお願い」と件名を明記してください。
E-mail center@mienpo.net Fax.059-222-5971


転載を希望される場合は必ず「みえ県民交流センター指定管理者:みえNPOセンター・ワーカーズコープ」に連絡してください。
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