理念と歩みから学ぶ NPO物語 vol.5
組織にスポットライトをあて
三重県内の市民活動団体を紹介していきます。


特定非営利活動法人 伊勢志摩バリアフリーツアーセンター
語り手 中村 元さん(理事長)・野口あゆみさん(事務局長)
左から野口あゆみさん、中村 元さん、スタッフの野原明浩さんと中村千枝さん

障害者や高齢者をお客さんに

……特定非営利活動法人伊勢志摩バリアフリーツアーセンター(以下、「バリフリセンター」と略)の主目的は?
中村/障害者や高齢者をお客さんと考えて、観光の再生を図ることが活動の主目的です。伊勢志摩には、伊勢神宮や鳥羽水族館、御木本真珠島など観光地や施設、宿泊施設もたくさんあり、食べ物も美味しいし、景色も綺麗。この豊かな資源を活かして、お客さんを増やすにはターゲットを広げるのが一番ではないかと考えました。
……障害者や高齢者に注目したきっかけは?
中村/バリアフリー化した観光地の成功例を雑誌で見たことがきっかけです。カナダのウイスラーはスキー場で有名な観光地ですが、バリアフリー化した結果、冬よりも夏の方がお客さんが多くなり、しかも冬の客も増えているそうです。
……雑誌記事だけで動いたのですか?
中村/現在、バリフリセンターの事務局長を務める野口が中心となって活動していた伊勢ばりふり団との関係が大きいですね。このグループは「お出かけチェアウォーカー」というバリアフリーマップを出版していたのですが、メンバーには障害者もおり、彼らと親しくなるうちに、どんなバリアか事前にわかっていれば、「行く」「行かない」は障害者自身が判断できるし、外に出たがっている人も多いと実感しました。
……バリフリセンターの業務内容は?
中村/障害者や高齢者に向けて伊勢志摩の観光施設や宿泊施設、レジャー情報などのバリアフリー情報を発信しています。
……センターを作ることで、お客さんが増えると思いましたか?
中村/バリフリセンターができるまで、伊勢志摩の観光客の内、障害者は約0.5%でしたが、その家族など同伴者を入れれば2%になりました。たくさんある観光地の中から伊勢志摩を目的地に選ぶ人たちを2%増やすのは難しいけれど、これまで旅行に出られなかった障害者や高齢者を倍にするのはできると思いました。
 それともう一つ、町のバリアフリー化も狙っていました。バリフリセンターの利用者が増えれば、確実に町がバリアフリー化するだろうと。それは、地元の障害者が喜ぶことですし、自分たちが高齢者になった時に、住みやすい町になっているということでもあります。メリットが繋がって、広がること。それが本来のまちづくりだと僕は思っています。
……しかし、バリアフリー化している施設は少なかったのでは?
中村/それに関してはすごく幸いなことに、すでに取り組んでいる宿泊施設が2件あり、僕らはそこに、どんどんお客さんを送るだけで良かったのです。
 バリフリセンターからお客さんがたくさん送られて「あの宿は儲かっている」という噂がたてば、他の宿泊施設もバリアフリーに取り組んでくれるだろうと考えましたし、実際そうなりました。新聞やテレビなどのメディアにも、バリフリセンターを通じて、バリアフリールームを紹介するため、注目度も高くなります。普通の人が「テレビで見た部屋に泊まりたい」と問い合わせがくることもあり、全客室の中で一番高額な部屋にも関わらず、稼働率が一番いいという宿泊施設もありますよ。
……施設のバリアフリー化には資金が必要では?
中村/施設を改装しなくても、障害者を受けいれたいという気持ちがあれば、すでにバリアフリーですよ。例え、施設内に段差があるとしても、必ず誰かが手伝うようにすればいいこと。もちろん、バリフリセンターとしてはお客さんに、バリアのこと、その回避方法は伝えますし、その宿では対応できないお客さんはお送りしないというシステムができています。
……センターが間に入ることで、トラブルを未然に防ぐのですね。しかし、それは直接お客さんと宿泊施設との間ではできないことでしょうか?
中村/宿泊施設の人は障害について詳しくありませんし、障害者は自分の障害について話すことを嫌がります。バリフリセンターも当初は、障害を教えてもらえないことに悩みました。
 その時、僕があるスタッフにアドバイスしたのは、まず、自分が車椅子利用者だと話すこと。こちらから心を開けば、相手も「この人ならわかってくれる」と、話してくれます。
 障害者の方も、自分の障害が普通だと思って話すので、お互いに認識がずれることがあります。例えば、車椅子と一言で言っても、いろいろな種類があるし、重さも違いますよね。
野口/時折、「宿は障害者割引がありますか?」と聞かれることもありますが、その時はきっぱりと「ありません」とお答えします。食事をして、宿泊することに障害者も健常者もありませんからね。どこまでが正当な要望かはきちんとしておかないと。
……観光の再生にはバリアフリーが必要?
中村/バリアフリーが必要なのではなくて、お客さん一人ひとりのことを考える力と仕組みが必要だということです。“おもてなし”を形にするには、バリアフリーは最適。「一人ひとり違う障害を持っているから、それぞれに合わせて考える」ことができる宿になるということですから。それが広がれば、一般のお客さんにとってもすごくいい宿になるはずです。
 バリアフリーの観光地作りというのは、これまで日本各地で行われていましたが成功したのは伊勢志摩が初めて。他はバリアフリーにしたのはいいけれど、集客に結びついていません。NPOの中には「事業を行ったことが成功」みたいに言う人もいますが、成果を出して、世間に喜ばれて、社会に組み込まれていくことが大事でしょう。
オフロード車椅子ランディーズの貸し出しなど、アクティビティの部分にも力を入れています

理念を語る理事長と現場をまとめる事務局長

……バリフリセンターの組織として、理事長である中村さんの役割は?
中村/僕は作っただけで、あとは野口が現場を作ってくれたと思います。僕はバリアフリーや障害者に関してはほとんど知らないし、見る目もない。でも、彼女は連れ合いが障害者ということもあって、見る目がある。それに、「障害者のために何かしなくっちゃ」と言う気持ちで、一生懸命走り回っている彼女を見たら、周りも手助けしたくなるし、いろいろな分野と繋がっていくのが当たり前のことです。ただ、僕からすると繋げすぎとは思います(苦笑)。
……繋げすぎとは?
中村/それはバリフリセンターの目的ではないだろうという分野とも繋げようとしたりね。
野口/現場にいると「あれもやりたい」ってどんどん出てくるから。その枝葉が分かれて、自分や仕事を圧迫してしまうことはありますね。
中村/でもね、僕が現場に対して「もっと考えろ、動け」って言っているようじゃダメだと思います。逆に「やめろ」って言わなくちゃいけないような人をスタッフにできたのは、すごく良かったですよ。
……中村さんは現在、東京在住ですが、地元にいなくて困ることもあるのでは?
中村/理事長の仕事は、年一回の総会で理念をぶれずに語ることと、お金を持ってくることだけ。後はみんながやってくれます。
野口/連絡事項のタイムラグが時々ね(笑)。でも、重要案件の時はすぐに連絡をくれますし、連絡が来ない時は「あんまり重要視してないな」って思いながら、こちらの判断で動くこともあります。
……理念の確認は大切ですか?
野口/理事長の話を聞くことで、ぼんやりしていた部分が明確になりますね。私たち専従スタッフのモチベーションが上がらないと、他のスタッフのモチベーションもあがりません。私たちも仕事をしながら、環境を良くしているつもりですけど、いつも顔を合わせているからマンネリ化してしまい、理事長の話はいい機会になっています。
……お礼を言われることなどは、現場のモチベーションに繋がりませんか?
野口/それはモチベーションを上げるのに本当に必要です。だから理事長が聞いたら怒るようなこともばれないようにやっている時もあります(笑)。
 例えば伊勢志摩以外の観光地のことを尋ねられて、調べてお答えしたりとか…。
中村/お客様基点のことなら、怒らないです(笑)。止めるのは行政基点の話と、教育や福祉など観光と違う分野に巻き込まれそうになる時ですね。
野口/バリアフリーは環境や教育など、あらゆる分野に関係してくることですから、声がかかることも多いですね。中でも建物に関してのアドバイスを求められることが多いのですが、予算が付いていないことが多々あって…。
中村/お金をくれないなら、やるんじゃないと。
野口/その辺はちょっとジレンマ。アドバイスしなかったら、使いづらい建物になってしまうことが予測されます。そんな時はアドバイスした後、「次はちゃんと予算を持ってきてください」と念を押します。
……この活動が全国的に波及していると感じることはありますか?
中村/平成18年12月の「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」の施行を受けて制定された国土交通省の第一回バリアフリー化推進功労者大臣表彰を受賞しました。福祉分野である厚生労働省ではなく、国土交通省や内閣府がバリアフリーに取り組みだしたことは評価すべきことですし、日本にとってちょっといいことかもしれないと思いますね。
野口/インターネットなどの検索でヒットするのか、賞を頂いてから視察が増えました。
……視察が多いと対応が大変でしょう?
中村/視察に関しては料金をいただいているので、ウエルカムです(笑)。「宿泊してね」とも言えますし、いい収入源。
野口/でも、視察に来て最終的に「我が町では、誰にしてもらえばいいんだろう」というところにおちいって、お帰りになる方々が多いですね(苦笑)。
中村/北川さんが知事を辞める時に「市民との協働で成果はあったのか」という質問が出たそうですが、その時に「バリフリセンターが成果を上げて、全国的にも有名になった」と答えたと聞いて、それはちょっと嬉しかったですね。
伊勢神宮参拝などもサポートできます

【データ】
三重県鳥羽市鳥羽一丁目2383-13 鳥羽一番街1階
Tel. 0599-21-0550
Fax. 0599-21-0585
E-mail iseshima@barifuri.com
ホームページ http://www.barifuri.com
●代表者 理事長 中村 元
●団体設立年月日 2002年1月23日
●NPO法人化年月日 2003年1月24日
●会員数 91名
●会費 正会員3000円 サポート会員3000円 賛助会員10000円

おねがい
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E-mail center@mienpo.net Fax.059-222-5971


転載を希望される場合は必ず「みえ県民交流センター指定管理者:みえNPOセンター・ワーカーズコープ」に連絡してください。
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